東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)55号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、原告主張の三点において認定を誤つた違法のものである旨主張するが、以下に説示するとおり、その主張は理由がないものといわざるをえない。
(一) 原告は、まず、引用例における摂氏一〇〇度以上の塩素化温度は単に明細書作成上の配慮から記載した非現実的なものである旨主張するが、引用例第六欄五四〜五五行には、被告の指摘するとおり、「通常の塩素化は摂氏一〇〜一〇〇度、好ましくは約一五〜七〇度の間の温度で行なわれるが、塩素化が超大気圧下(under super atmospheric pressures)で行なわれる場合には摂氏一〇〇度以上の温度が用いられる」旨明確に記載されているのであるから、これをもつて、「特許明細書作成上の配慮から記載した非現実的温度である」と断定することはできないのみならず、引用例の通常の塩素化温度であること原告も争わない摂氏一〇〜一〇〇度の温度範囲には本願発明において採用する温度である摂氏一〇〇度が包含されているのであるから、本願発明と引用例とが右温度の点においても異なるところがない旨の本件審決の認定は正当であるというべく原告の前示主張は、理由がない。
(二) 原告は、また、本件審決が高圧法ポリエチレンと低圧法ポリエチレンとは、その塩素化には実質上格別の差異はない、としたことをもつて、事実誤認も甚だしいものであると非難するがこれを支持するに足る適確な証拠は全く存しない。もつとも、高圧法ポリエチレンと低圧法ポリエチレンとがその性質、性状において若干の差異のあることは被告の認めて争わないところではあるが、そのことから直ちに両者がその塩素化において、本願に関する優先権主張日当時において、実質的に全く異なる技術を要求するもの、換言すれば、高圧法ポリエチレンについては塩素化はできるが、低圧法ポリエチレンについては、それが全く不能であるか、あるいは不能に近い技術的困難を伴うものであることが一般に知られていたと断ずることはできない(本願の対象とする低圧法ポリエチレンが必ずしも分子量一〇〇、〇〇〇以上のものに限られず、それ以下のものを含むことは成立に争いのない甲第一号証(本願の明細書、とくにその第四頁一七、一八行)によつても明らかであるから、甲第十七号証もまだ原告の叙上主張を肯認すべき証拠としがたく、他に原告の右主張を確認するに足る証拠はない)から、原告の前記非難は理由のないものといわざるをえない。
(三) 原告は、さらに、本件審決が本願発明が物を生産する方法であることを度外視し、その生成物の特性につき全く考慮せず、たやすく引用例から容易に想到できる程度のものであるとしたことを誤りであると主張する。しかしながら、本願の願書及び明細書及び乙第一号証の一、二(アール・エ・ブイ・ラソフ及びジエー・ビー・アリソン著「ポリエチレン」)を総合し、さらに本件弁論の全趣旨を参酌考量すると、本願発明の塩素化成生物には、多種多様の性質、性状をもつた種々様々な用途に適する生成物があること、引用例の高圧法ポリエチレンの塩素化においても、塩素の量や反応条件を変えることにより、原料ポリエチレンとは異なつた種々の性質、性状、用途の生成物を得ること及び塩素化により生成物は弾性ゴム様性質を帯びてくるものであり、溶剤に対する溶解度も増してくるものであることが本願の優先権主張日当時すでに知られていたことは認めうるところであるが、これ以上に、高圧法ポリエチレンの塩素化物が剛性のものとして知られていたとか、塩素化によつてポリエチレンが必ず硬化することが知られていたという事実はこれを肯認しがたいのみならず、本願発明が、原告主張のような三〇〜三五パーセントの塩素を含有するゴム状弾性体という特定の物質の生成を目的とするとはいいえないこと前掲甲第一号証及び本願要旨に照らし明らかであるから、原告の前記主張も理由がないものといわざるをえない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の三点に違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。(服部高顕 三宅正雄 奈良次郎)